第17章 夢幻
神楽「?確か…6個くらいだったアル」
6個?
…なんで?
『もう少しなかった?』
神楽「んー…覚えてないアル」
『…』
大量にダークマターと化した唐揚げのせいで、食べることのできる鶏肉は元々用意していた量の三分の二になってしまった。
二人には8個ずつ配った筈なのに…
ピピピピ…
終了を知らせる電子音が鳴り響き、ホカホカと吐かれた湯気が油の匂いと共に部屋中にたちこめた。
『ねぇ銀さん』
銀時「ん」
テレビの中で微笑む結野アナに齧り付いている銀さんが声だけで応える。
『つまみ食いしたでしょ』
銀時「なんでそうなんの!」
『だって数合わないから!いくらお腹すいてたからって子どもから強奪とか浅ましいわ!』
銀時「あのなァ…」
番組が終わり、結野アナを目にしっかりと焼き付けた銀さんがめんどくさそうに頭をかいた。
銀時「お前ェの皿にも7つ乗ってんだろ。大体、俺がつまみ食いするってんならもっと上手くやるわ」
『言い訳かプーさん!』
銀時「オィィィ!もう良いだろプーさんはよ!」
神楽「…うわーん。プーさんが私のはちみつ取ったァ」
銀時「はちみつ!?そっちのプーさん!?」
『はい泣かせたー。銀さんが神楽ちゃん泣かせましたー。ちょっとPTAまで行ってくる』
銀時「だ!か!ら!」
玄関に向かおうとした私の肩を銀さんが掴む。
銀時「我が坂田家はしんどい時は仲良く分け合いなんだよ」
『…は?分け合い?』
自分の皿を見つめる。
皿の上には7個の唐揚げ。
二人に配ったのは8個ずつ。
『…銀さんが分けたの?』
銀時「…」
無視か。無言の肯定か。
『なんで?』
銀時「…なんでもクソもねーよ」
不貞腐れたようにそっぽを向く。
天パの隙間から覗く耳は、ほんのり赤く染まっていた。
その姿につい笑みが漏れる。
…何照れてんだか。
『ありがと』
銀時「…」
神楽「?」
終始話の流れが見えていない神楽ちゃんだけが、キョトンと首を捻っていた。