第1章 全ての始まりは雪の中。
くいくい、と泉が健人の袖を引っ張る。どうしたのか、と見ると、お風呂場を指差していた。
「ん、お風呂?」
「うん」
「いいよ、入っておいで」
「健人もー」
「お、俺はいいから!」
「仕方ないなぁ…」
「お前は更にいいから」
「はい」
立とうとした風磨を健人が制すると、風磨はすぐにまた腰を下ろした。
「そう言えばさ、下着とかってどーしてんの?」
「とりあえず、俺のを貸してる」
「トランクス!?」
「仕方ないだろ!女物の下着なんかないよ!」
「あ、いや今のはいいじゃん!って意味だったんだけど」
「…変態が」
「怖い」
「健人ー。お風呂ー」
「一人で入って来られたら、デザートあげるよ」
「ハーゲンダッツ!?」
「そ」
「いってくるー」
とてとて、とお風呂場に向かう泉。二人の男はそんな純真無垢な少女を見て和んでいた。
泉がシャワーを浴びている間に、健人は風磨に相談をすることにした。
「まず下着くらいは、ちゃんと女物買ってやれよ」
「いきなり下着の話か。ま、まぁ分かったけど」
「後、記憶喪失なんだよな?出来るだけ色々なところに連れて行った方がいいかもしれない。何か思い出す事があるかもしれないからな」
「うん、そうだな」
「後は…」
「ん?」
「体の関係になったら詳しく教えて!!」
「ならんわ!」
スパーンとスリッパで風磨の頭を叩く。
ひとしきり女と暮らす事についてアドバイスなどを貰うと、ちょうど泉が風呂から出てきた。
濡れた長い、色素の薄めな髪をタオルでごしごしと拭いている。格好は、トレーナー一枚と、トランクス。健人も風磨も、突然見せられた本人も無意識である妖艶さに、少し顔を赤くした。
「健人ー、ぶおーってやつ」
「あぁ、ドライヤーね。はい、やってあげるからおいで。風磨、お前も風呂入って来いよ。服は俺の貸すし」
「おう、サンキュー。んじゃ、ちょっと借りるわ」
風磨は健人から服を借りると、風呂場に入って行った。
「…ねぇ、泉」
「んうー?」
「あのお兄ちゃんには気をつけるんだよ」
「お?気をつけるって何を気をつければいいのだね?」
「んー、いい人だけど、泉に変なことをしてくるかもしれないから」
「変なこと?」
「うーーーん……とにかく気をつけること!」
「にゃっ!あい!」