第2章 異彩の女
風が無い、静かな満月の夜。
テルは産気づいた。
「ハァハァ、ッ……」
既に弱りきったテルに、周りは姫の誕生を諦めつつあった。
元々嫁ぐ前からの従者を中心に、テルの出産を進めていく。
「テル様、頑張りましょう。姫様に会えますよ!」
苦しむテルをよそに、時間はどんどん過ぎていく。
オギャ、オギャアオギャー
姫が生まれたのは明け方だった。
新しい太陽の光が部屋の中までも照らす。
響く産声を除き、室内は静まりかえっていた。
「テル…様、姫様ですよ?」
もはや息も浅く、起き上がることが出来なくなったテルの上に、生まれたばかりの赤子をのせる。
「…赤ちゃん。」
幸せそうに笑う、母の顏をしたテル。
「姫様のお名前を教えていただけませんか?」
「…カナよ。きっと優しい子に育ってくれる。」
テルは震える手でまだ柔らかいブロンドを撫でる。
「カナ姫様…。」
「この子の成長を見届けたかったなぁ…。」
頬を伝う涙に、従者達も俯く。
すすり泣く声。
「紅徳殿に…伝えて。ありがとう、さようならと」
その瞳が閉じた時、誰からも愛されていた彼女を思い皆泣き崩れたという。