第2章 異彩の女
遠方へ職務に出ていた紅徳がテルの死を聞き、皇へと帰還したのはしばらく経ってからだった。
冷たく横たわるテルを何も言わずに見つめていたという。
「…テル様がありがとう、さようならと。」
「そうか…。」
「紅徳様、こちらが姫君でございます。」
従者が布にくるまれた赤子をそばにやる。
しかし紅徳はちらりと顏を見ると、険しい面持ちで部屋を出ていこうとしていた。
「紅徳様!姫様をお抱きにならないのですか?」
焦ったように紅徳の背を追う従者。
すると、振り返った紅徳は何か忌々しいものでも見るかのごとく我が子を睨みつけた。
「そやつがテルを…ワシの愛しいテルを奪ったのであろう!」
大声で叫び散らす紅徳に、従者達は目を開く。
「しかし…姫様は紅徳様の…。」
するといつもの静かな声で言った。
「…一応はそれも皇女。縁談が進められる歳になるまでどこかに閉じ込めておけ。ワシの目の前にそれを出すな。」
婚姻の裏にどんな企みがあろうとも、紅徳がテルをどれだけ慈しんでいたかを従者達は知っていたために、それ以上何も言えなかった。