第2章 異彩の女
……これはすでに過去となった話。
「だいぶお腹も大きくなられましたね、テル様?」
「えぇ、早く顏を見せて欲しいわ。」
そう言って笑うと、柔らかく揺れるブロンドの髪。
「姫様のお名前はもう決まったのですか?」
「ん〜、内緒。顏を見たらまた迷ってしまうかもしれないでしょう?」
笑うと細まる栗色の瞳。
母となった女性とその従者の穏やかな会話。
しかし、従者の女性の顏は決して柔らかなものではない。
腹が大きくなるにつれてやつれ、弱っていくテル。
その大きく膨らんだ様子から、時期が近いことが見て取れる。テルは元々あまり身体が丈夫ではなかったため、
周りは妊娠してからの不調は疲れや妊婦特有のものだとしか考えてはいなかった。
「紅徳様も姫様の誕生をお喜びになるでしょうね。」
「…だといいんだけど。」
細い指で優しく腹を撫でるテル。
彼女はこの時すでに気づいていたのかもしれない。
腹の中にいる娘がもつ力と、むかえる未来の悲惨さを。