第11章 親と子
いつまでも続く重い空気に息苦しさを感じ、堪らずシンドリアで紅玉や白龍に会ったことを話してみるが、未だに紅炎の表情は見えない。
「あの…無断で帰国して申し訳ありません。ですが陛下は一応私の父でもありまして、長い間顔を合わせていないとはいえ危篤と聞けばお顔ぐらい拝見したいと思うものです。」
紅炎に対して不信感を持っていることがどうしても言葉遣いに現れてしまうことを薄々と感じながらも、この態度を変える気は無かった。
「…もういい。」
足を止めることなく吐かれた言葉はなぜか力強く小さい。
「ではなぜあのように無理矢理な…」
「長く説明する時間は無い。」
そう言って足を止めると、乱雑に赤い布を渡された。
ようやく窺えた顔はいたって冷静で何も読み取れず、向けられた言葉からも状況がまるで理解出来ない 。
「その格好では目立つ。それを羽織っておけ。」
布を広げると、それは初めて会った時も紅炎が身に着けていた赤い羽織だった。
そこでようやくシンドリアの薄い衣しか身に纏っていないことに気がつき、急に恥ずかしくなってくる。
煌帝国では女性が肌を出すことは少ないというのに、
今の自分の格好は…。
穴に隠れたくなるような恥ずかしさの中、今まで自分の手を強く引いて歩いていたのは自分のこの姿を隠すためではないかなんて都合のいい考えが浮かぶ。
実際今いる場所は柱の影になっていて、外からは見えていないだろう。
「ありがとう…ございます。」
今までの自分の態度が恥ずかしくなる。
と、同時に紅炎の不器用な優しさがなんとも嬉しくて、渡された服に顔をうずめる。
僅かな布の擦れる音。
…その時頭にわずかな重みと温かさを感じた。
「明日父上と義母上の元へ行く。おまえは部屋に戻れ。」
頭をポンポンと軽く叩かれていることに気がつくと、どんどん顔に熱が集まっていく。