第11章 親と子
「ねぇ、どこに連れて行くの?私お兄様たちに挨拶をしないといけない。」
煌帝国についてから無言のまま急かすように腕を引いて歩き続けるジュダル。絨毯に乗って飛んでいた時のあの笑顔はどこへ行ったのか、彼は一向にこちらへ顔を向けようとしない。
「……ババアんとこだよ。そもそもお前を連れて来いって言ったのは紅炎じゃねぇしな。」
「ねぇ、さっきも言っていたけどババアって誰?」
そう聞くと急にジュダルの足が止まった。
「練玉艶。皇太后かなんか知らねえが、お前の母親だろ。」
淡々と言う姿は全てを他人事と思っているように見えるのに、ようやく見えたその表情はどこか苦しんでいるようだった。
「皇太后様…とはね、お会いしたことすらないの。しょうがないのよ。皇太后様と私のお母様は同じ妃どうしだったから、お互いをよく思えなかっただろうし。私のお母様は他国から嫁いだ身でね。立場もあまり良くなかったの。だから本来ならお顔を拝見出来ないほど上の方なのよ。私にはとてもお母様と呼べる度胸も無いし、今もすごくドキドキしてるの。」
そう自嘲の意味を込めて笑うと、彼はなんとも言えないような顔をしていた。
「だから…行けない。」
うつむき、そっとジュダルの手を離す。
「あ?」
「どうして皇太后様が私と会いたがっているのかわからないけれど、まずは紅炎お兄様に許可をいただかなくては。今は何もわからないけれど、いつかきっとお兄様にも皇太后様にも認めていただけるようになるから。」
驚きを隠しきれず口を開けたままのジュダルに背を向ける。
「お前…紅炎に心酔してんだな。…つまんね。」
その選択によって導かれる結果がどんなに悪いものになろうとも、人はいつも選択を迫られる。
「私は自分の目で見て選びたいから。」
自分のことさえわからないくせに何を言ってるのかと、自分の言葉に少し笑う。
「だからごめんなさい。先にお兄様に挨拶に行ってくるわ。ジュダル、もしよかったらあなたも一緒に!」
その時ようやく自分にかかる大きな影に気がついた。
「なぜお前がここにいる。」
背中に聞こえた怒りのこもる低い声に、言葉は詰まり目を見開く。
その時ようやくジュダルの驚いた表情の訳がわかった。