第10章 浮かぶ傷跡
「なら俺が連れて行ってやるよ」
おそらく自分に向けられたであろう言葉の元を首を動かして探す。
最後に見上げた空に彼はいた。
真っ黒な彼はまるで物語に出てくる悪魔のようだった。
「あなたは……?」
「お前が紅奏だよな?」
質問に質問で返されたことに一瞬戸惑うが、また呼ばれたその名前に自然と眉は寄る。
「わからないの。」
「ふーん、変なやつ。」
「あなたは?」
「俺さぁ、お前を連れて帰るように言われてんだよ。」
全く会話をする気が無いのか、黒い彼は1人で話をどんどん進めていく。
「待って。誰にどこへ連れて行くように頼まれたの?」
「んなの煌に決まってんだろ?オヤジたちにお前を傷つけずに連れて帰るように言われてんだよ。シンドバッドとも戦いてぇけど今日は諦めるしかねぇな。」
「私はシンドリアでやらなきゃいけないことがあるの!今はもうやり遂げれなくなったかもしれないけど……それでも煌帝国には帰れない!」
黒い彼は大げさ過ぎるほどのため息をついた。
「あのよぉ、出来ねぇならお前がここに居る意味あるのか?んなのさっさと帰んねぇと邪魔なだけだろ。」
その言葉は確かに私の胸を深くえぐった。
確かに……彼の言う通りかもしれない。