第10章 浮かぶ傷跡
どれだけ走り続けたのだろう。途中階段も降りた。
とにかく誰とも同じ空気を吸いたくなかった。
どこか……遠い遠い場所へ……。
道の先に小さな光を見つけてそこへ足を進める。
すでに息はきれていて胸が苦しい。
重くなった足で光に向かう。
光につつまれた瞬間、温かな風が頬を抜けた。
「ここ……。」
青く晴れやかな空。地には生い茂る緑と揺れる大きな木の木陰。大きく息を吸い込むと、今まで荒れていた心は嘘のように静かになった。
そこは王宮の中庭にあたる場所。
白龍くんやアリババくん達に初めて会った思い出の場所だ。その場にある一つ一つに思い出がある。
みんな……元気かな。
思い出されるもの全てで私は笑っていて。紅玉だってあのキラキラとした目で私を見てくれている。
しかし全て今では手の届くことのない、辛いものになってしまった。
「もうわかんないよ……。」
全部全部、投げ捨てたかった。
再び滲み出す涙と共に吐き出した言葉。
「私は…何なの?!」
返事なんて望んでいなかった投げかけに、答えは空から降ってきた。