第10章 浮かぶ傷跡
「ジャーファル、やめなさい。」
シンドバッド王の真剣な声に、心に浮かんだ不安は大きさを増していく。
「確かに姫の力は重要です…。彼女をがいるかいないかで国は大きく変わるでしょう。……彼女の力は今はまだ小さくとも、いずれは戦の形を変えた金属器さえもしのぐかもしれない。彼女を奪い合う戦争だって起きるかもしれません。」
……ジャーファルさんの声が震えてる?
何度も繰り返し発せられる“彼女の力”という言葉。
彼女というのは私のことだろう。
けれど私には思い当たるものは何も無い。
そこで初めてカナは自身の置かれている状況を考えた。
私の全てはあの冷たい牢屋から始まり、そして変わらずそこで終わりを迎えるはずだった。
そこへ紅炎お兄様と紅明お兄様が来てくださった。
お二人は私をあそこから出してくださった恩人……。
お兄様は新しい名前までくださったの。
だから私はあの方達に恩を返さなくてはならないわ。
だから私はシンドバッド王に近寄った。
だから…………。
あれ?私は……最初は無理矢理なお二人が嫌いだったはず。そうよ!母上にいただいた名前まで勝手に変えられたわ!?
あれ……どうして……。
いつから私はあの方達を慕うようになったの?
私の本当の名前………なんだったかしら。