第10章 浮かぶ傷跡
シンドバッド王に寄り添い心臓の音に耳を澄ましていると、そっと右手で顔を掴まれる。
若干上目遣いになりながらもシンドバッド王を見つめると、ゆっくりと瞳を閉じた彼の顔が近づいてきた。
自分の視界を閉じると、瞬間温かさが唇に触れた。
あぁ、これがキスなのかなんて。
自然と受け入れた自身に驚きながらも、愛が直に伝わるその行為に浸っていた。
名残惜しそうに唇が離れると、互いに火照る目で見つめ合う。
少し赤くなって微笑む彼に愛しさを感じてしまう。
もう一度彼に触れたい。
そう思ってシンドバッド王の胸にそっと手を当てる。
その時。
「うッ……。」
低く唸った彼は抱きとめる間も無く、膝からその場に崩れ落ちた。
言葉を発することも出来ず、時が止まったようだ。
しかし床に散らばる紫の髪は現状をさらに目に焼き付ける。頭の中では過去の映像が何度も何度も繰り返される。
私が…傷つけた?
私はまた……あの扉の部屋にトジコメラレル?
体は震え、全身から嫌な汗が噴き出す。
足の力が抜けて倒れるように座りこむと、横を何かが走りぬけた。
「シン!しっかりしてください!シン!」
息を切らしているのか、上下している肩につられて揺れる銀髪に安心している自分がいた。
「マスルール!どこですか!」
倒れこむシンドバッド王の頭を起こしながら彼がそう言うと、空からマスルールさんが降りてきた。
どうやら窓から飛び降りたらしい。
「シンを医務室へ!姫は私がお連れします。」