第9章 気持ちの行方
『……、……だ。』
歩き続けていると、ボソボソと声が聞こえてきた。
はっきりとは聞き取れないが、聞き知ったその声に安堵する。
シン……こんな所にいたんですか。
近づいて声をかけようとした時、今度ははっきりと聞き取れた。
あぁ……近づかなければよかったなんて。
その言葉を最後まで聞いてしまった今はそう思う。
『俺は君を……愛している。君を守ると誓おう。』
主の真剣な瞳の先には、憂いと照れとを浮かべた切なげに笑う彼女の姿が見えた。
心臓の音がうるさく鳴り止まない。
今自分はどれほど情けない顔をしているだろう。
なんだか馬鹿らしくなり自分に嘲笑する。
馬鹿らしいと思うことでしか、自分を留めておける自信が無かった。だってそうじゃないですか……。
一見やっと想いが結ばれたように見える2人は、片や相手の力を政治に利用することを考え、片や国にために愛の無い政略結婚を自分で進めようとしているんだ。
悔しさで表情が歪む。
悲しみで胸が苦しくなる。
行き場のない湧き上がる想いに目を閉じる。
……なんて私は醜いんだろう。
佇むジャーファルを隠すように雲は太陽を覆うと、明るかった道には影が伸びた。
深く息を吸ったり吐いたりを繰り返して気持ちが落ち着いたことを確認すると、再び目を開けた。
思うだけでなく行動に移さなければ何も始まらない。
言い聞かせるように抱き合う2人を目に焼き付けた。