第9章 気持ちの行方
「まったく…シンはどこに行ったのやら。」
靴の音がカツカツと廊下に響く。
アリババたちを見送り、ジャーファルは今日の職務を伝えるためにシンドバッドを探していた。
空は明るく澄んでいるというのに、慣れたいつもの廊下がなぜか寂しさを帯びて見えるのは、彼らが旅立って毎日聞こえていた稽古の声が聞こえないからだろうか。
はぁ……
止めきれなかったため息が出る。
違う。
本当は自分でもわかっているのにそれをわからないふりをするのは逃げているだけじゃないか。
……悔しいんだ。
シンに言われたままに紅奏姫を避ける自分が。
今だってそう。港に長居して姫と顔を合わせたくなかったからこうしてフラフラと城中を歩き回っているだけ。シンを探していると理由をつけて自分を甘やかして逃げ道を作っている。
『ジャーファル、お前はどちらの人間だ?』
シンに言われたことが頭で何度も繰り返される。
そんなの決まっているじゃないか。私はシンについて行く。自分はシンドリアの人間だ。
……そう言えなかったのは、自分の中で少しでも姫を思う気持ちがあったからだろう。
いや、確かにあった。あるんだ。
今でもあの方の笑った顔はすぐに浮かぶ。
これを恋心と認めてしまうと、シンの言葉の通り私は紅奏姫と同じようにシンドリアと煌帝国という大国の力に挟まれることは目に見えていた。
何より主は近づくなと言ったのだ。
私に出来ることなんて何もないだろう?