第9章 気持ちの行方
船を見送り、1人王宮の中を歩く。
紅玉のあの悲痛な表情が忘れられなくて何度も頭をよぎっていた。
「私……何かしたかなぁ。」
滲み出す涙と共に漏れ出した呟きとため息が独り宙を舞う。
「君は何も悪くないさ。」
突然後ろから声をかけられて驚き振り返る。
すると廊下の影になっていたところからスッとシンドバッド王が現れた。
「シンドバッドさん……。」
シンドバッド王はカナの声が聞こえていないようで、その真剣な眼差しでカナを貫くように見つめる。
「そう、君は何も悪くない。心配しなくていいんだ。」
その一声一声が呪文のように体から自由を奪っていく。
カナは不思議とその場から動く気にならず、気づくと迫る影はカナにかかっていた
「君のことを……もっと教えてくれないか?」
シンドバッド王の右手がそっと輪郭を伝って頬を撫でる。その動きぐあまりにも艶やかで、頬にはどんどん熱が集まる。
「俺は……君の力になりたいんだ。」
絞り出すような、彼らしくない弱々しい声。
その言葉が決定的だった。
務めを果たせたと思った。
「俺は君を……愛している。君を守ると誓おう。」
向けられた優しくて温かい笑顔。
やった。
やっぱりこの間のが効いたんだ。
これで一歩踏み込めた。
お兄様たちにも報告出来る。
みんな喜んでくれる。
「嬉しい…。私もずっとシンドバッド王をお慕いしておりました。どうか私にもあなたを支えさせてください。」
寄り添った胸は思いのほか厚く、“男性”を意識してしまい恥ずかしくなって目を閉じてうつむく。
その際ほのかに香る彼の香りに何も考えられなくなっていく。
ただその瞬間、思い浮かんだのが銀髪の彼だったことに胸が苦しくなった。