第9章 気持ちの行方
「ちょ、ちょっと待ってください!それでは彼女があまりにも酷ですし、何より友好条約を結んだ意味が無い!!」
「それはこちらも強く言えないだろう。曖昧のまま結ぼうとしたのはどちらも同じだったようだな。あれはあってないようなものだ。」
「そんな……。それでは間に挟まれた姫がかわいそうだ。」
「歴史の長い国では女性の立場なんてそんなもんだよ。
家柄の保身や男の私欲の道具にされて、愛のない婚約をする。
……だがなジャーファル、一つだけ彼女が幸せになる方法がある。」
この時ばかりはシンの口の動きがスローモーションのようにゆっくりと、且つはっきりと見えた。
「俺が紅奏姫を娶ればいい。愛ならば与えてやるさ。煌帝国の策を逆手に取って、彼女から煌の情報を引き出す。向こうからさっきみたいに近づいて来てくれるんだ。手間も省ける。」
スッと立ち上がると、シンドバッドはジャーファルの肩に手を置く。
「お前に任せていたことだが…あれはもういい。むしろ今までのことがあるからな。紅奏姫には出来る限り接触を避けてくれ。」
その言葉に頭の中で何かが切れた気がした。
「そんなのっ!!彼女の気持ちはどうなるんだ!!そんなの彼女の幸せには繋がらな…」
「ジャーファル、お前はどちらの人間だ?」
ジャーファルの言葉を遮ったシンドバッドの冷たい言葉はジャーファルの心を締め付けた。
「お前はシンドリアのジャーファルだろう。お前は俺に従ってくれればいい。姫1人に感情移入しすぎだぞ。」
ジャーファルはそれ以上何も言えなかった。
頭に浮かぶのは彼女の笑顔。
裏通りで弱々しく座り込む姿。
私には何も出来ない……。
ジャーファルは何かに耐えるようにグッと目を閉じると、下を向いて息を吐いた。