第9章 気持ちの行方
話が終わり、冒険話に花を咲かせたアリババ達が部屋を出ていく。その最後尾で未だ微笑むシンドバッド王に向けて一礼して扉を閉めようとするが、
「姫っ!!」
という彼の声でその動きを止めた。
「さっきも言ったが彼らの出立は明後日だ。紅玉姫も同日に一度帰国なさるらしい。しばらくの別れだし、挨拶でもしておいたらどうだい?仲がいい姉妹のようだし、さぞ寂しいだろう。」
「お気遣いありがとうございます。では、失礼します」
再度扉を閉める際、その隙間からは未だ微笑むシンドバッド王と目が合った気がした。
「シン…すいません、出過ぎた真似をしました。」
扉が完全に閉まるのを確認すると、ジャーファルは視線を下に落として謝罪の言葉を口にした。
しかしシンドバッドは小さく吹き笑う。
「ジャーファルがあそこまでムキになるのは珍しいな。」
「ジャーファル……お前、紅奏姫を俺に近づけたくないのは本当に俺を守るためだけか?」
顔は笑って見えるが、それが違うとわかるのは長い付き合いからだろう。……主は自分を疑っているのかそれとも、試しているのか。
「いえ…力が未知の彼女をあなたに近づけるのは危険だと判断しただけですよ。それにあの態度は……明らかに変です。」
未だ痛いほどの視線から目をそらすが、先ほどのことを思い出すと胸の辺りがチクチクと痛んだ。
紅奏姫がシンに触れた時、彼女は女性の顔をしていてとても……綺麗だと思った。
だからそれを止めるのが遅れてしまったのだ。八人将としてあってはならないことだ。
でもシンはそうかと笑うだけで何も咎めようとしない。
「ジャーファル、俺は姫がここに居る理由がわかったよ。」
は?
「おそらく彼女は俺の妻になるように命じられているんだろう。そうすれば俺の側に居ても不思議ではないし、彼女が気づいた時には俺のマゴイを吸い付くして殺しているとかそんなところだ。シンドリアの情報も流せれば尚良し。あとは……ガキでも出来れば煌帝国は万々歳だろうな。子がいずれ王位を継げば煌はシンドリアの実権を握りやすくなる。」