第9章 気持ちの行方
「いやいや、女性を危険な場へ送り出すなど私には出来ないよ。」
おどけたように笑うシンドバッド王だが、周りの視線は2人へと集められる。
〝…どうせならば視線が集まる瞬間。今だろうか。〟
玉座に座るシンドバッド王のもとへゆっくりと歩み寄る。
ハテナを浮かべた不思議そうな顔。
カナは口端を上げ、艶やかな眼差しでシンドバッドを見つめると、そっと肩に手を添えた。
長い髪を片側に掛けて妖美に微笑みを作ると、男性陣ばかりだったその場にフワッと香りが漂う。
女性であるモルジアナでさえ頬を染めているのだから、男性陣もしかり。
「姫……?」
「シンドバッド王…私ではお役に立てないのですか?」
肩に置いた手をスッとシンドバッド王の頬へ伸ばして、こちらへ向ける。
これでいいと気持ちを遠くにするの。
シンドバッド王に見染められること。
それが私がここにいる意味。
そう言い聞かせるように何度も心で呟くと自身の頬をも朱に染め、眉を下げてシンドバッドを見上げると、突然肩を強く引かれた。
「ジ、ジャーファルさま?」
彼の苦しげな表情に胸がズキンと痛む。
「王に…シンに近づきすぎですよ、姫。」
表情とは裏腹に重く威圧感のある声。
カナにはジャーファルの気持ちがわからなかった。
悲しい顔で怒るあなたの気持ちはどこにあるの?
ジャーファルが自身とカナの間に割って入ったことに驚きを隠せないのか、シンドバッドは目を丸くしていたが、フッと目を細めるとカナとジャーファルの頭を優しく撫でた。
すると拍子抜けしたようにジャーファルはシンドバッドを見る。
「ジャーファルの言う通りですよ姫。私的には嬉しいのですが公的には慎まなければいけないのが残念だ。」
「ですが…あなたは常に空気を明るくしてくださる。それだけでいいのですよ。だからこそ危険な地へは送りたくないのです。」
一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、すぐに自分が先ほど言った言葉の返事だとわかった。
…自分が優勢と思っていたのに、その場を丸く治められてしまった。必死の誘惑をも妹の甘えにしてしまうのかと、悔しく思って拳を握った。