第8章 影は動く
「また後で。」
そう言って部屋を出たお姉様達の足音が遠くなると、従者と2人きりの部屋でため息をついた。
「姫…?」
「夏黄文、お兄様からの手紙には何と書いてあったの?」
「煌帝国に帰国せよと…ただそれだけであります。」
「そう……。」
どうして今更帰国を促すのかわからない。
シンドリアに滞在を始めてからもう幾月も経っているのに、どうして今なのだろうか。
「夏黄文、調べてほしいことがあるの。」
「何でありますか?」
「お姉様、練紅奏についてわかるかぎりのことを調べてちょうだい。」
その主の声はあまりにも凛としていて、有無を言わせない圧があった。
「で、ですが姉上様のことを調べることは姫の立場を悪くするかもしれませんっ!」
「それでもよ。お願い夏黄文。私はお姉様のことを信じたいから知りたいの。」
あぁ、主の願いを叶えたくない従者がどこにいようか。
夏黄文は涙を浮かべる主の白く小さな手を取って跪いた。