第8章 影は動く
「失礼するよ。」
そう言って部屋に入って来たのはシンドバッド王だった。貼り付けたような笑みに違和感を覚えるが、カナには同じように笑って迎え入れることしかできない。
横目に映る紅玉の顔が曇ったような気もするが…。
シンドバッド王の後を申し訳なさそうに歩く紅玉の従者夏黄文も部屋に足を踏み入れ扉が閉められる。
カナは崩れた衣服を整え、シンドバッドへ向き直った。
「あぁ、いや。楽にしてくれてかまわないよ。彼から話があるらしいから、紅奏姫の様子を確認がてら来ただけなんだ。」
「どうしたの?夏黄文。」
会話と従者の様子から自分に対してだと理解したのか、紅玉がベッドから起き上がり、立ち上がった。
「実は…煌から急ぎ帰国せよとの伝令が届いたのであります。」
帰国…。
従者の言葉に明らかに哀しみを浮かべる紅玉。
しかし、彼女が助けを求めるように見上げたのは、変わらず笑顔を纏うシンドバッドだった。
頼られているのは自分だと思っていた分、少し残念に思ってしまうのは姉の性だろうか…。
その存在感に誰もが惹かれ、強い期待感と絶対的な信頼を寄せてしまう彼の力。
彼の光が強すぎて、逆に怖いと感じてしまうのは私だけなのか。
ッ!!
しばらく紅玉の横顔を見た後、カナも続くようにシンドバッドを見ると、偶然か目が合ってしまった。
すると、シンドバッドは目を細めて笑った。
「こちらとしては紅玉姫にはもっとゆっくりしていって欲しいんだが…。2人積もる話もあるだろう、紅奏姫には私から話があるのでお付き合い願いますか?」
あぁ、嫌な予感がする。