第8章 影は動く
「想い人…か…。」
カナが自嘲ぎみに呟くとその雰囲気を感じとったのか、紅玉は不思議そうにカナな顔を覗き込んだ。
「お姉様?」
「ねぇ、愛ってなんだろう。スキになるってどういうこと?」
今まで自分が生きることに必死だったのに、誰かを思うなんてできなかった。
ふとこぼした言葉に、頼られていると感じて張り切る妹を心から愛しく感じる。
でも…このスキとは違うスキ。
「スキというのは…その方を支えたい、一緒に居たいと思うことじゃないかしら。愛は相手を思ったときに感じるポカポカした心のこと。」
「……ステキなことね。」
顔を朱に染めて笑う紅玉。
私が男性だったら紅玉がいいな…なんて。
素直で女の子らしくて本当にかわいいと思う。
そこで、ふと思ったことを口に出す。
「紅玉には、そう思える男性はいないの?」
途端に顔がリンゴのように真っ赤になり、その顔を両手で包んで俯く紅玉。
「わっわた、私は…あの。…えと。」
目が泳ぎ始め焦りだすのをなだめるように優しく髪を撫でる。
そして優しく、優しく言った。
「お姉ちゃんに、教えて?」
ここまできたら言わせたい。
自然と顔が近くなっていたのか。
ヒャアッと声を出したと思うと、紅玉は座っていたベッドに仰向けに倒れてしまった。
しかし、カナはそれを追うように紅玉の顔の近くに肘をつき、自身も横になる。
「だめ…?」
目を見つめてそう言うと、紅玉は小さく口を開けて息を吸った。
しかし、その瞬間。
ドドドドンッ!!!
激しいノック音。
あぁもう、いいところで。
また誰か来たようだ。