第8章 影は動く
「ジャーファルさん…。」
ドアを控えめに開けて顔を覗かせたジャーファルと目が合う。
瞬間フワッとした笑顔にひきつけられるように、目が離せなくなった。
その様子を横で真剣に見つめられていることにも気づかないほどに。
「よかった、気がつかれたのですね。」
そう言いながらベッドに近づき、ジャーファルはカナの額に手を当てる。そのあまりに自然な手つきに、女性2人の頬は一瞬で赤く染まった。
慣れない事態にどうすればいいのかわからなくなったカナは気を静めるために俯いてしまう。
「ご、ご心配おかけしました…。」
「本当ですよ。あなたが倒れたと聞いて本当に心配したんですからね。」
「心配…してくれたんですか?」
誰かに心配されるなんでいつ以来だろう。
少し顔を上げてジャーファルを見上げる。
目の前、少し動けば鼻と鼻があたる程の距離に整った顔があり、カナは思わず目を見開いた。
「当たり前です。心配しない理由なんてないでしょう。」
ーーーーー。
カナがジャーファルに頭を撫でられたと気づいた時には、すでにジャーファルは部屋を出ていた。するとそのときを待っていたかのように紅玉が飛びついてきた。
「お姉様っ!!!!」
紅玉は先ほどまでの重い雰囲気はどこへいったのか、眩しい笑顔と輝いた瞳を向けてくる。
傾いた体をゆっくりと起こし、
「どうしたの?」
先ほど愛しさが増したばかりのかわいい妹の頬を両手で包み込んで親指で優しく撫でる。
カナが子どもをあやすように落ちついた声をかけると、紅玉は両手をギュッと握りしめた。
「お姉様の想い人はジャーファルさんですの??」
カナはブフォっという効果音があるかの様に、とたんに恥ずかしさやなんやらで顔にどんどん熱が集まっていった。
瞬間。
紅玉には聞こえていなかったのか、カナは頭を撫でられた時に彼から囁かれた言葉を思い出した。
「もう無理はなさらないでください。あなたは私にとって大切な人ですから。」