第8章 影は動く
「えぇ、そうです。彼女とは義理の姉妹とのことでしたが、彼女の出生や幼少期をご存知ですか?」
「え……?」
畳み掛けるようなシンドバッドの言葉に紅玉は言葉を詰まらせる。
「全てご存知ないのでは?これは私の勝手な考えですが…お二人は顔を合わせたのですら最近なのではありませんか?…白龍皇子も含め、あなた方は彼女については実際何も聞かされないまま、知らないままシンドリアで初めて顔を合わせたのでは?いや、そうして話を合わせるように言われたのではありませんか?……例えば、あなた方が決して逆らうことの出来ない大きな力に。」
「あっ…ちが、ちがいますわ!!私は、」
「では姫君は紅奏姫の力についてご存知ですか?」
紅玉が必死に否定しようとするが、思ってもみなかったその単語に思わず固まる。
「力……?」
力の抜けた紅玉の声が静かな部屋に響いた。
紅玉が姉と慕う紅奏は、聞いている限り迷宮攻略をしていないはず。魔法を使う魔導師とも聞いていない。
ならばシンドバッドが言う力とは何なのか。
「やはり何も知らないのか。」
紅玉の頭は真っ白になっていた。
自分は何も知らされていない。
紅奏〝お姉様〟にも。
紅炎〝お兄様〟にも。
ああ、そうか。
結局私は妾の子。信頼なんてされるはずがないじゃない。同じところに立てるはずがないじゃない。
寂しい………。
背後でシンドバッド達が部屋を出て行く音がする。
しかし紅玉は唖然と立ち尽くし、今なお目を覚まさない紅奏を見つめた。