第8章 影は動く
シンドリアでの暮らしに慣れ始めたころ、カナは倒れた。
中庭での一件以来カナと紅玉の距離は近くなり、カナにとっては昔を取り戻すようで、どこに行ってもお姉様と慕ってついて来る紅玉にカナ自身も心を許していた。
丁度そのころだ。
ベッドに寝かされて医師に診察されるカナの周りには、涙を流す紅玉。シンドバッドの一歩後ろにはなんとも言えない表情をしたヤムライハとジャーファルがいた。
「熱はありますが、点滴をしておきましたのでじきに目を覚まされるでしょう。」
「そうか、休暇の日に呼び出してすまなかったな。」
「いえいえシンドバッド王の命でしたら。」
そう言って部屋を出て行く医師。
ごく普通の様子だが、紅玉には気になることがあった。
「あの……。」
「どうしましたか、紅玉姫?」
奥が見えないその笑顔に、紅玉の不安はますます大きくなる。
「どうして先ほどのお医者様は、お姉様に一切触れなかったのですか?診察も治療も全て…魔法でしてらしたわ。魔法ならばそちらにいる女魔導師の方が適任でしょう?その方をお姉様に触れさせれない訳でもあるのですか?シンドバッド王」
紅玉の疑うような視線に、シンドバッドの笑みは崩れ冷たい眼差しへと変わる。
「では紅玉姫、私にもお聞かせください。あなたは紅奏姫についてどこまでご存知ですか?」
「お、お姉様について…?」
冷たいオーラをヒシヒシと伝えるように、ゆっくりと近づくシンドバッドに思わず紅玉は後ずさる。