第8章 影は動く
うつむいて青くなるカナな腕を強く掴む小さな女らしい手がカナな視界に入る。
「人のことを詮索するのは無しよ。髪の色だっていいじゃないの。お姉様はお姉様だわ。」
紅玉のその言葉が胸なジーンと沈む。
この子は私の小さな変化にも気づいてくれたのか。
正直に、只々嬉しい。
顔を上げると、紅玉がカナな表情を伺うように覗いていた。
「過去がその人を作り上げるなんて一説にすぎないわ。私たちが生きているのは今だもの。過去なんて関係ない。……ね?お姉様も悲しい顔をしないで?
私はお姉様に昔何があったのか知らないけれど、私達例え義理でも姉妹じゃない。私はお姉様のことを信じてるわ。だからアリババちゃんもアラジンもお姉様に謝ってちょうだい。」
どうしてこの子はこんなにも素直で居られる?
どうして人をここまで信じられる?
紅玉は私のことを覚えていないにも関わらず、出会って間も無いにも関わらず信じようとしてくれている。
私も応えなきゃ。
「紅玉…ありがとう。」
久しぶりに人の温かさに触れた気がした。
この子だけには嘘をつきたくない。
本当の私を、カナを知って欲しい。
シンドリアを訪れてから不意によぎるあの紅い髪の男は、今はもう見えない。