第8章 影は動く
「ま、待って紅玉っ!!!」
シンドリアの王宮を駆け回る。
後方では紅玉の従者という男がフラフラになりながら追いかけてきていた。
きっかけは紅玉の言葉。
「お姉様に会っていただきたい方がいますわ。」
長い影に覆われた廊下を抜けると、明るい外へと出る。
眩しい日差しに目を慣らしていくと、そこは中庭。
「あら、白龍ちゃん達もいるのねぇ。」
しばらく紅玉と話した後、引かれるままについて行くと、敷き詰めたように草花が生い茂った中に四人の人影が見えた。
「おぉ!紅玉じゃねえか!何してるんだよ。」
紅玉がアリババらしき人物と話し出す中、カナは1人を見つめて立ち尽くしている。
食事の時と同様に煌帝国の服を着ているのに、髪の色は紅炎兄様とは違う。飲み込まれてしまいそうな黒色と、悲しげな火傷の跡から目を離せなかった。
「…俺の顔に何か付いていますか?」
そう言われて、ハッと我に返る。
「アリババちゃん、この方は私のお姉様よ。」
「お姉様、こちらはお友達のアリババちゃんよ。」
そう言ってカナの腕に抱きつき紅玉。
「初めまして、煌帝国第六皇女の練紅奏と申します。」
この自己紹介にも慣れてしまった自分がなんとも悲しい。
するとアリババが不思議そうに口を開く。
「あの…どうして紅奏さんは、紅玉とも白龍とも髪の色が違うんですか?」
……!!!
なんとなく聞いてはいけないことになっていたのか。
一瞬空気が固まった。
しかし、青い髪の少年による
「おねえさんは不思議な感じがするね。どうしてかな?」という空気を読まない言葉に助けられる。
「……不思議な、感じ。」
しかしカナは先ほどとは比にならないほど焦りを感じていた。
過去がバレてしまったのかもしれない。
あの恐怖や疑心を写した瞳にまた晒されてしまうかもしれない。そう思うと言葉が続かない。
冷や汗が流れる。