第1章 開かない扉
「か、夏黄文…。ヒクッ。」
どこまでも暗い廊下は恐怖と寂しさを大きくし、すでに迷子となった紅玉にさらに追い打ちをかけるように冷たい向かい風が吹く。
帰りたい。けれど自分がどの道から来たのかもわからなかった。
その時。
「うッ…。」
無音な黒の世界で確かに聞こえたうめき声。
紅玉は涙を止めて顔を上げ、歓喜の表情で笑う。
目の前には古びた大きな扉。
「あった…。ありましたわ。」
紅玉は扉に耳を当ててそっと目を閉じる。
確かに聞こえる小さな声。
もし、もしも本当にこの先に女の子がいるならば。
「……ねぇ、誰かいるの?」
ひとりぼっちは寂しいから……。
「……辛いの?」
呟くように出した声だったが、扉から微かな物音が聞こえた。
「……だれ?」
紅玉は澄ませていた耳を通った声に驚き、尻もちをついた。
この先に誰かいるのは明白だった。
どこか辛そうな、苦しそうなか弱い声。
「私は紅玉よ…あなたは?」
「こうぎょく……あたしは、カナ。」
「カナ……あなた、私の話し合い手になりなさい。」