第6章 七海の覇王
路地の隅で座り込み、膝に顔をうずめる。
表通りとは違う、牢を思い起こすような薄明かりの差し込む暗い角。
「結局……何も変わってないじゃない。」
呟いてみるが、返事をしてくれる誰かはいない。
軽く擦りむいた膝から血が滲み出て、無性に寂しくなる。
「シンドバッド王のばーか。」
「一国の姫がそのような言葉使いではいけませんよ?」
明らかに自分へと向けられた声にハッとする。
表通りの明かりにシルエットとして映し出された影は、ゆっくりと近づいてくる。
小さな風に顔を上げると、屈んで自分と目を合わせたジャーファルが笑っていた。
「あ…ジャーファル…さん。」
「ジャーファルで構いませんよ、姫様。…膝を怪我している様ですね。急いで王宮へ参りましょう。」
冷静に傷の様子を見ると、安心させるように微笑むジャーファル。そっと手を差し出された。
「ッ……。」
先ほどのシンドバッドのことが頭をよぎり、カナはその手を払う。
「ご、ごめんなさい……。」
始めは手を払われたことに驚くような顔をしていたジャーファルだが、カナを落ち着かせるように頭を撫でる。
「こちらこそ失礼いたしました。では、これではどうでしょうか。」
そう言ってジャーファルは自分の袖裾を摘む。
「城までは人で賑わっています。こんなものでも、あなたを導く役にはたつかと。」
カナは少し戸惑ったが、顔を赤くして微笑むと大人しくジャーファルの気持ちに甘えるのだった。