第6章 七海の覇王
顔を前に向けると、先ほどよりも近くにニヤニヤとしたシンドバッドの顔があった。
「さあ、いきましょう!」
そう言って強く腕を引き走りだしたかと思うと、途端に掴んだ腕を振り払われる。
目を見開くシンドバッド王。
一瞬時が止まったかのようにも思われた。
すると直ぐに笑顔のシンドバッド王がカナの前に跪いた。
「失礼いたしました。私としたことが女性の手を許可もなく乱暴に掴むとは。私の失態です。参りましょう。」
先ほどの様子とはまるで違う優しい表情。
しかし再び手を繋がれることはなかった。
見渡す限り人、人、人。
少年が草むらを掻き分けて走り回るように、シンドバッド王は人の波をぐいぐいと進んで行く。
「あら、王様!」
「王様、今日はいい魚が獲れましたよ!」
「そうか、これからも励んでくれ!」
人に埋もれ、どんどんシンドバッドの姿は遠くなる。
「待って、シ…シンドバッド王!」
カナが軽くつまずきかけたその間に、完全に姿は見えなくなってしまった。