第6章 七海の覇王
多くの兵を後ろにつけ、ジャーファルさんとマスルールさんに挟まれて港へ降りた。
初めての異国の地。
…ついこの間まで牢から出られなかった人間が数日で他国の島へ降りたつなんて。
カナがグッと身を引き締めた時、目の前に手が差し伸べられた。
「はじめまして煌の姫君。私がシンドバッドです。」
顔を上げると、艶のある紫の髪をなびかせる、いかにもオーラのある男性の、いかにも作られた笑顔。
「はじめまして。煌帝国第六皇女、練紅奏です。
ほ、本日はお日柄もよく…」
「建前はいいさ。姫君、あなたにはシンドリアという国と人々を知っていただきたい。私があなたに望むのはそれだけです。」
昨夜何度も練習した挨拶をバッサリと切られると、両手を掴まれて顔を覗き込まれた。
…顔が近いっ!
「も、もちろんそのつもりです!私は煌とシンドリアを繋げるための大使として来ましたから。」
「そうか、それはよかった。」
爽やかな笑顔を向けられ、ついカナは顔を赤く染めてしまう。
「では参りましょう。王宮までの道のりも気に入っていただけるといいのですが。」
そう言って先を歩くシンドバッド王。振り返ると呆れたような、それでも楽しそうに笑うジャーファルさんが居て。
あぁ、この人はこんな顔もするのかと胸がドクンと1度だけ高鳴った。