第6章 七海の覇王
シンドリアへ向かう船の一室。
カナはベッドで掛け布に包まり、1人思い悩んでいた。
練紅炎という男。
もう2度と開くことがないと諦めていた扉を開けてくれたのは彼だった。感謝もしている。
だからこそ、再び皇女として表舞台に立たされようが、名を奪いスパイや人質として利用されようが役に立ちたいとも思っている。
彼は私を道具としてしか見ていないことはわかっている。それでも、ふとした間に見える優しい顔が私を狂わせていった。
憎もうにも憎めない。
彼は…本当は優しい人なのでは?
そんな自分に都合のいい考えばかりが浮かんでしまう。
遠くで、もうすぐ港に着くと声が聞こえた。
ここからは私1人。
紅奏を演じてシンドバッドに近づかなければならないと思うと溜息が出る。
七海の覇王とはどんな男なのだろうか。
…さっきの方の様に大きい人だったらどうしよう。
掛け布から顔だけを出す。
ジャーファルさんみたいな目でこれからも見られ続けるのだろうか。正体がわからないものへと向ける疑心の目は昔を思い起こさせた。
扉が閉められるときに味わった疑心と恐怖の視線。
……人は怖い。ジャーファルさんが怖い。
そう思いながら、笑う紅炎兄様を浮かべる私はどうかしてしまったらしい。