第5章 海を渡って
「ではまいりましょうか。」
ジャーファルがそう言うと、マスルールは勢いよくカナを抱きかかえる。
「ひゃ!ちょっと、離してください!」
マスルールの腕の中でジタバタと暴れてみるが、その逞しい腕から抜けられそうにないとわかると助けを求めるように紅炎を見た。
しかし分厚い肩の間から見えたのは、紅炎と紅明がシンドリアからの使者と楽しげに会話する後ろ姿だけだった。
振り向いてもくれないの…?
やっぱり私は…所詮いらない者ですか?
カナは虚しくなる胸を押さえると俯いた。
そしてジャーファルはその様子を横目に険しい表情を作っているのだった。