第5章 海を渡って
翌日。
「うわぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」
青く澄んだ雲一つ無い空の下。煌と書かれた旗を掲げる何船もの船が連なって大海を進んでいた。
その中でも一番大きな船の甲板で、カナは子供のように目を輝かせて身を乗り出して海に手を伸ばしていた。
「すごい!すごいわ。」
「あまりはしゃぐな、紅奏。」
振り返ると、紅炎と今にも寝そうな紅明がいた。
「紅炎様…。」
「その呼び方はよせ、お前は元より俺の義妹の1人。妹にそんな呼ばせ方をするのは好かん。」
カナは顔を真っ赤にして紅炎を見上げた。
「では…紅炎兄様。そう呼ばせてください。」
カナは紅炎が自分を家族としてくれたことが、何よりも嬉しかった。たとえこの男が自分を他国への人質としようとも、人の心を考えない冷酷な炎帝であろうとも。
自分は必要とされている…そう感じられることに幸せを感じていた。
すると、目を擦りながら紅明が口を開いた。
「あなたの他にも第四皇子白龍殿とあなたが加わり第九皇女となられた紅玉が、留学生として滞在しています。」
「こ…紅玉っ!」
「?顔を合わせたことが?」
「い、いいえ…。何でもありません。」
久しぶりに聞いたその名前に喜びを隠せていないカナに、紅明の顔つきが変わる。
「あなたと紅玉にどんな関係があるかは知りませんが、彼方で顔を合わせたとしてもあなたの任については他言しないでください。」
「わっ、わかっています。…そのくらい。」
紅明は小さくため息をつくと、
「あなたの過去について話すことは相手側の同情を誘う手立てになるでしょうし構いません。ですが、向こうの2人にはあなたが皇女となったことと、今回使者としてシンドリアへ向かうことしか連絡していませんので。」
紅炎が近づき、カナな肩に手を置く。
「いい報告を待っている。」
「さぁ、着いたようですよ。」
紅明の言葉に顔を上げると、
「うわぁ……!」
目の前には木々が生い茂った小さな島があった。