第4章 光が射すとき
小さな沈黙の途中、紅明があぁと声を発した。
紅炎は無言のまま目だけで紅明を見る。
「1人……昔聞いた話ですから真偽はわかりませんが、思い当たる女性がいますよ。」
たしか…と紅明は続ける。
「もう10年ほど前になりますが、一度夜中に徘徊している紅玉を見たことがありまして。
何をしているのかと問い詰めたら、友達に会うと。」
「友達…?紅玉にか?」
眉を寄せ、信じられないというように紅明を見る紅炎。
「えぇ、私も不信に思い後を追いました。すると、罪人を捉える牢の前に座り、1人で何やら話していたのです。楽しげに笑って。」
「牢…なぜその中に居る罪人が女とわかった?」
すると、紅明はクスクスと笑いだした。
「簡単ですよ。紅玉が名前をカナと呼んでいたことと、扉の中から聞いた声が当時の紅玉と変わらぬほどの女児のものでしたから。」
「幼い女児が罪人として牢にいたのか。」
紅炎がそう言うと、紅明の顔が曇った。
「兄王様…カナという名を聞いて思い当たることはありませんか?」
「知らん。女の名前になど興味無い。」
えぇっと…と、紅明は頭をかく。
「まだ前皇帝陛下がお亡くなりになっていない頃、陛下には紅覇がまだ生まれて間もない時に、娶られた方がいらっしゃったそうです。魔力保有量が高く魔法道具の精製に長けていた国、トプア王国の第一姫テル様。しかしトプア王国は資源を全くといっていいほど持たず、貿易が経済の中心でした。テル様は魔法大国の中でも1、2を争う力と美貌の持つお方だったそうですから、陛下との婚姻にも裏があったのでしょう。」
紅炎は椅子に腰掛け、肘をついて手に顎を乗せた姿勢で紅明の話を静かに聞いていた。