第3章 隔てるモノ
「…姫、この者に関わってはいけません。お部屋に戻りましょう。」
夏黄文は紅玉の腕を掴むと、もと来た道へ引っ張り歩き出す。
「嫌よ、私はカナと!」
紅玉は必死に抵抗し、腕を振り払おうとする。
「もうそんな名を呼ぶほどの仲になっておられるとは。いけません、姫。扉の向こうに居る者は悪魔ですよ。」
紅玉は夏黄文に腕を掴まれたまま、扉を見つめる。
「…さようならですね、紅玉姫。私なんぞのわがままにお付き合いいただきありがとうございました。」
泣くのを耐えているような、それでも優しい声。
紅玉はそれを聞いて夏黄文の手を振り払い、扉を叩く。
「そんなこと言わないで!どうしていつもみたいに名前で呼んでくださらないの。お別れなんて嫌よ!私たちお友達でしょう…?」
しかしカナからの返事はない。
俯いた紅玉は、再び夏黄文に腕を引かれて歩きだした。
「…紅玉、ごめんなさいッ。」
カナは鎖を鳴らし、冷たい床に伏して涙する。
「私は…やはり人を傷つけてしまう。」
扉の向こうを知らない紅玉は、手を引かれながら泣いていた。
「どうして…カナ…」
すると夏黄文は足を止め、目線を紅玉に合わせて屈んだ。
「姫、あそこに居るのは異彩のあくまです。二度とあれと関わってはなりませんよ。」
「…あくま?」
「あれは側に居た従者、母親ですら殺した娘です。」
「お…お母様を?」
紅玉の顔が青くなる。
「はい。ですから姫、二度と来てはなりません。寝所から脱け出すことすらあってはならないことですよ。人の立場は努力次第で変わりますが、それは努力あってこそです。早くご立派になられて、陛下やご義兄弟に認めていただきましょう。」
「……わかったわ、夏黄文。」
頭に浮かぶのは優しいお義兄様方。