第3章 隔てるモノ
いつものように紅玉は扉に背を預け、未だ知らない友の顏を思いながら嘘をつく。
初めて出来た友達だから。
自分の生い立ち、立場、生き方を知られたくなかった。
兄弟達の楽しそうな会話を、まるで自分に起こっていたことかのように嘘を作る。
カナと話をしている間は自分を忘れられる。
他人からの目を無かったことに出来るような気がした。
しかし、その日紅玉は部屋を出た後、それに合わせるように動いた影に気がついていなかった。
「それでお義兄様が、私に笑いかけてくださったの。それを見ていた紅覇ちゃんが〜。」
今日も自分が見た光景を自分の思い出へと作り直す。
「紅玉姫!!」
紅玉が顏を上げると、目を開き口を曲げる従者の姿。
「か…夏黄文。違うの、これは…。」
思うように言葉が出ず、わたわたと立ち上がる。
「申し訳ございません。紅玉姫はわたしのわがままに付き合ってくださっていただけで、姫様には何の罪もございません。どうかお許しを。」
重い扉の向こうから、いつもとは違う静かな声がした。
違う…カナのせいではないわ。私が…
夏黄文は歪んだ顏でカナのいる扉を睨みつけている。