第3章 隔てるモノ
暗く狭い牢屋の中で鎖につながれ、朝晩もわからないままただ眠る日々。
毎日思い浮かぶ目の前で倒れた侍女の顏。
恐怖に怯え、自分から離れていく従者達。
…自分で自分が怖かった。気持ち悪いと思った。
自分が触れると人が死んだのだから。
私がこの手で殺したのだから。
私は普通ではないんだ。
カナは小さな拳に力をいれる。
私はどうやら皇帝陛下に、お父様に必要とされていないらしい。母様の顏も知らない。
全てに裏着られたようだった。
目の前の重い扉にある小さな小窓。
そこから差し込まれる細い光に目を細める。
頬を伝って涙が落ちた。
これからも独りならばいっそ、死んでしまおうか。
鎖の擦れる無機質な音が響く。
毎日のように従者に言われていた言葉が不意に流れる。
「姫様、あなたは母上様の命を継いでこの世にお生まれになられたのです。いわばテル様の命の続き。あなたには常に母上様がお側にいらっしゃいます。
どうか、大きくお成りください。あなたは独りではありませんから。」
誰にも触れてはいけない。
そう自分の中に決まりを作って。
この孤独の中で、必要性とされるまで息を潜める。
幼い姫は、照らされる光に微笑む。
「母様、私は大きくなります。母様にいただいた命、決して粗末にはしません。」
私は一目につかない日陰であろうとも、人が恐れるトゲがあろうとも。必ずや母様が愛した皇のために尽くします。
小さな体には重すぎる覚悟だった。