第2章 町に風が吹く
“親は利き酒、子は清水”
『(……まさかね)』
そんな事ある訳ない。
だって、御伽噺じゃあるまいし。
頭ではそんな風に弟の言葉を馬鹿にしながらも、私の両手は自然に泉の水をすくい取ろうとしていた。
やけに冷たい。
まるで氷水だ。
泉に両手を突っ込んだ状態で思わず目を見張る。
真冬でも無いのに……晴れていれば陽射しだって差し込むだろうこの場所で、こんなに水温が低いなんてあり得るんだろうか。
“不思議な不思議な泉の水を”
伝承の言葉をそこまで
思い出した時だった。
バシャン……ッ!
激しい水音と凍てつく寒さが身体を包み込む。泉の中に落ちたと理解した時にはもう、私の腕は何者かに引っ張られていて。
『……!!……っ!!!』
引き摺り込まれる。
深い深い闇の中に。
薄れいく意識の中、
私が最後に見たものはー……
「ぎィやああああ!!!」
私が見たものは人生を振り返る走馬灯でも、閻魔が待つ地獄の門でもなく……全裸で大絶叫する瞳孔開き気味のイケメンだった。
【町に風が吹く】完