第2章 町に風が吹く
「なんでもその不思議な泉は大人が飲むと酒、子供が飲むと水に味が変化するらしいぜ?」
『ふーん』
「泉の畔に植えられた馬鹿でかい杉の木には神様が宿ってるんだってよ」
『ああそう』
「なァ、今から行ってみねェ?」
言うと思った。
私はやっぱりか、とひとつ溜息を吐いて蝋燭に灯っていた火を消した。
『無理。私アレだから、これから晩御飯の買い物行かなきゃいけないから』
「姉ちゃん……今、まだ昼前」
『とにかく無理』
「いいじゃねーかよケチ」
『何とでも言え愚弟が』
幼い頃に母を亡くして父子家庭で育ったせいか、弟はいつまで経っても姉離れ出来ないで居た。
年頃の猿……じゃなかった、青少年の癖に彼女も作らずに暇さえあれば私を誘ってミステリー巡りをしたがるし。
まあそれは単に私をカメラマン兼、実験台にしたいだけなんだけど。
「んだよ、つまんねェの」
ブツクサ文句を垂れる弟をひとり残して家を出る。
確かにまだ真昼間だが、近所の散策も兼ねて買い物するのもいいだろう。