第2章 町に風が吹く
親は利き酒、子は清水。
不思議な不思議な泉の水を、
飲めば元気が出るそうな。
神の恵みか。
精霊の悪戯か。
こわしみず。
『え……何それ』
母の仏壇にお線香をあげていた私は、怪訝そうな顔で後ろを振り返った。
父の転勤による引越しを終えたばかりの我が家はダンボールで溢れ返っている。
そのひとつに腰をかけているのは今年17歳になる私の弟だ。
「こわしみず」
『は……?』
「ここら辺に伝わる伝承。さっき親父と転校の手続きしに行った時に図書室で見つけたんだ」
子供の頃から伝承だの伝説だの、ミステリー的な代物を好む弟は嬉々として一冊の本を開いてみせた。
対する私はそんな話にこれっぽっちも興味がない訳で。