第1章 小悪魔な天使
放課後、教室には私と宏太しかいない。
迎えに来ると言っていた涼介がなかなか来ないのだ。
それまでならいいか、と宏太と話をしている。
すると、宏太が突然真顔になり、黙ってしまった。
「どうしたの?」
「…なぁ、すっげー唐突に衝撃発言してもいい?」
「お、おう」
「好きだ、泉」
「へぇぇ!?」
ガラッ
このタイミングでかよ、と開いた教室の扉を見ると、そこに立っていたのは今一番会いたい人だった。
「涼介…」
「あーあ。シスコンがきたよ」
宏太と涼介は仲が悪い。
それがなぜかは、次の涼介の発言で明白になった。
「藪先輩。俺の姉さん口説くのやめてくれませんか。不釣り合いなんで」
「ちょっと涼介っ」
「それにっ!!」
私と宏太は涼介から発せられるのには珍しい大声に瞠目した。
「俺はシスコンだ。泉姉さんを愛してる」
「なっ…!何言ってるの!?」
「黙って聞いて。俺は泉姉さんと出会った時からずっと好きなんだよ。藪先輩とは年季が違う。誰よりも泉姉さんを分かってて、誰よりも幸せに出来るのは俺だけだから。だから泉姉さんからとっとと離れて帰ってください」
宏太はその溢れんばかりの自信に負けた、とでも言いたげに小さく吹き出すと、「うまくやれよー」と教室を出て行った。
「涼介!どうしてあんな事言ったの!」
「泉姉さん、藪先輩が好きなの?」
「えっ…好きっていうか、友達だし…」
突然机の上に涼介が私を押し倒す。
とても複雑な、でもやはりいつもの可愛い笑顔で涼介は言う。
「俺だけしか考えられなくしてあげる」