第22章 story21“一瞬先の未来へ”
「…幸村?」
「…………」
「幸村?」
「…っあ!はいっ……!」
「どうしたの…?難しい顔してた」
やっと自分の呼び掛けに気付いた事にほっとしつつもどこか態度の違う幸村に彩芽は尋ねた。
指摘された幸村は思わず手で口元を押さえる。
「いえ…その、ただ少し羨ましい、と思ったのです」
「羨ましい?」
「彩芽殿は豊臣の方々にとても大切に想われているし、彩芽殿もまた…大切に想っているのだなと…」
彩芽を大切に想っている人が増える事は望ましい事で、現に大坂に来た事は良かったと幸村も今は思っている。
ただ、その積み重ねた時間の中に自分がいない事が少し寂しいと感じていた。
「幸村……」
「血縁よりも強い絆があるのでしょうね」
にっこりと笑ってそう言う幸村に彩芽はどんな言葉を返せば良いのかわからなかった。
「この先に河原があります、そこで一休みしましょうか」
「…うん」
河原に着くと、馬に水を飲ませ自分達も木陰に座り体を休めた。
「疲れていないですか?」
「うん、大丈夫だよ」
彩芽はずっと幸村に掛ける言葉を探していた。
他の人とは違う、貴方は特別なんだとどう言えば上手く伝わるのだろう。
馬の手綱を木に結ぶ幸村の背を見つめて下唇を噛む。
視線に気が付いた幸村は振り返って彩芽を呼んだ。
「彩芽殿、川の水がとても綺麗ですよ!」
「…………」
彩芽は幸村に駆け寄り、その広い背に抱き着いた。
「…っ彩芽、殿?///」
「幸村の事もね、大切に想ってるの…」
「…!」
「でも、他の人とは…違う大切で///」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
大切な人に、どれだけ大切に想っているかが伝わるように。
「…好き、幸村…………好きなの…」
泣きそうな声で話す彩芽を幸村は強く抱き締めた。
思いを言葉にするのは難しい。
言葉にしても十ある内の全ては伝わらないかも知れない、だが幸村には十分過ぎる程彩芽の思いが伝わった。