第18章 story17“藤棚の祈り”
その頃大阪では城を落としたと言う連絡が次々と入っていた。
残すは敵陣の本拠地である小田原城と三成達が攻めている忍城だけだった。
彩芽は毎朝欠かさずに中庭の藤棚へと足を運び手を合わせていた。
「どうして…藤棚なんだい?」
「おねね様…」
藤棚に祈る彩芽を不思議に思い、ねねは尋ねた。
「……以前怪我をして眠っている時に亡くなった兄に会ったんです、もちろん夢の中でですけど」
「夢で?」
「はい、上田の藤の木の下であったのでなんとなく…ここの藤棚にも通ずる所があるような気がしてならなくて…」
彩芽はそっと藤の幹に触れる。
「兄が、皆を守ってくれる気がして」
「…そうだね、きっともうすぐ良い報せが届くよっ」
「…はいっ」
返事をして微笑むと彩芽はまた藤棚に祈りを捧げた。
「帰ってきたらうんと美味しいものを食べさせてあげようね!」
「そうですね」
二人でクスクスと笑い合っていると伝令がねねの元へと走って来た。
「報告です!小田原城が開城したとの事!」
「本当!?彩芽っ!」
「はいっ!おねね様!…本当に良かった」
ねねと彩芽が安堵するのも束の間、伝令は表情を固くしたまま続けた。
「忍城は…水攻めの堤防が崩れ我が軍の被害も多く、未だ開城せずとの事です」
「え……」
彩芽は言葉を失った。
「三成が失敗…?あの三成が…?」
ねねも信じられないと言う顔だった。
「…っ!」
「彩芽っ!」
カクンと彩芽はその場に膝をつき震え出していた。
小刻みに揺れる肩をねねが支える。