第1章 story 1 “戦場に咲く一輪の華”
「////……私は、湯殿に行きます故、彩芽殿はゆっくりと休んでいて下さい」
「はい、ありがとうございます」
足早に部屋を後にした幸村は顔の火照りを手で隠すようにして湯殿へと向かった。
(……………////可愛い)
自分の中にも芽生えた気持ちが何なのか幸村はまだわからずにいたが、湯殿につく頃には落ち着きを取り戻していた。
「失礼致します 」
「…あ、はいっ………」
幸村の部屋で休んでいた彩芽の元に女中が訪れた。
「彩芽様、御部屋の用意が整いましたのでご案内致します」
「すみません、ありがとうございます…」
幸村のいない間に出て行くことに少し悩んだものの彩芽は女中に付いていく事にした。
女中の少し後ろを遠慮がちに付いて歩く。
「昌幸様からお話は伺っておりますよ」
「えっ……」
「お兄様は…残念でしたね……」
「はい……」
戦で倒れた兄の顔を思い出し、彩芽は顔を歪めた。
「冬は寒くなりますが、上田は良いところです。此処を自分の家と思ってお過ごしくださいね」
歩きながら振り返った女中はにっこりと微笑んだ。
亡くなった母と同じ位だろうか、笑った目尻に優しい皺が寄っていた。
「…はい……ありがとう、ございます」
彩芽もまた、そっと微笑んだ。
「彩芽様もお体を清めなければなりませんね、あちこち泥まみれですよ」
「!!」
彩芽はパッと顔に手を当てる。
「御部屋で支度を致しましょう、きっと疲れもとれますよ」
「はい…」
湯殿に浸かり、汚れも疲れも洗い流した彩芽は部屋に戻ると三人の女中に囲まれあっという間に仕立てられ見違えるほど美しくなった。
「彩芽殿!彩芽殿!」
「幸村様っ!彩芽様は御召し替え中です!お待ちくださいっ」
彩芽の部屋の襖に手をかけた幸村に慌てて女中は声を掛けた。
「す、…すまない…///」
幸村はストンと廊下に腰をおろし、落ち着きを取り戻した。
「すみません、彩芽殿、部屋に戻ったら姿がなかったので……少し焦りました…」
「幸村様のいない間にお部屋を出て御免なさい、心配を掛けてしまったみたいで…」
部屋の中から聞こえた彩芽の声に幸村は安堵の溜め息をついた。