第10章 story10“いくつもの後悔”
「アイツ…どこまで行きやがった…!」
清正は彩芽の姿を探していた。
さっきまでは距離を縮めるのに都合の良かった人混みも、今はただ煩わしいだけだった。
「彩芽!!」
必死に呼ぶものの、返事は返って来なかった。
(足が痛い……)
おろしたての草履は足にまだ慣れず、指の間が赤くなってしまっていた。
(でも…止まっていられない)
ぐっと唇を噛み締めて彩芽は再び走り出した。
そして角を曲がると漸く幸村の背中を捉えることが出来た。
「幸村!ゆきむ…っ!!?」
突然のドンッと言う大きな音と共に、彩芽の体は宙に舞った。
そしてそのまま、地面へと倒れ込む。
自分に一体何が起きたのか、彩芽は全く理解が出来なかった。
「幸…む、ら……っう…」
頭に痛みが走り、そのまま彩芽は意識を手放した。
「誰か山車とぶつかったぞ!!」
「息はあるのか!?」
彩芽の周りに人が集まり出す。
人だかりに気付いた清正は急いで駆け寄った。
嫌な予感がしていた。
「……彩芽?」
呼び掛けに応えない愛しい人を清正はそっと抱きかかえた。
息は、してる。
同じ頃、くのいちもこの現場を目撃していた。
「幸村様!!彩芽さんが…!!」
「!!?」
驚いた顔で幸村はようやく彩芽の方へ振り返る。
そこにはぐったりとして動かない彩芽と大切そうに彩芽を抱える清正の姿があった。
「彩芽……」
幸村が呟く。
やっと呼んだその名前は、虚しく宙に掻き消されていった。