第8章 story8“君を想う心”
「ねぇ、幸村様?そんなにあの子に会いたいんです?」
幸村と共に大坂へと向かっているくのいちは幸村に問う。
「父上にも言われたろう、……彩芽には会えない」
そう言うと幸村は更に馬を走らせた。
「…私、先の様子を見てきますね」
「あぁ」
自分の求めた答えがこれ以上待っても得られないと感じたくのいちは先の山の様子をみにいった。
走りながらポツリと呟く。
「…でもお互いに想い合ってたら、巡り会っちゃうもんだよねぇ」
くのいちは彩芽を知らない。
だが、幸村が彩芽を想い続けていることは知っていた。
それが、どんなに強いものかも。
「幸村様!この先の山は特に問題なさそうです」
「そうか、わかった」
日も暮れ始め、幸村は馬を止めた。
「山に入ったら今日はもう休もう」
「はい」
それから3日、幸村とくのいちは大坂へ大分近付いていた。
考えまいとしていても、幸村の頭の中には彩芽の事が浮かんでしまう。
「大坂まであと一息ですねっ」
次第に口数の減ってきている幸村にくのいちが言葉を掛ける。
「……そうだな」
「……幸村様、彩芽さんの事…聞いてもいいですか?」
「…彩芽の事?」
「私、直接会ったことないから…どんな人だったのかなぁって…」
機嫌を損ねてしまうかも知れないとわかっていても、くのいちは幸村に尋ねた。
彼がここまで想う人とはどんな人なんだろう。
「…………」
「なぁんて、すいません!余計なこ「花の」
「……え?」
くのいちの言葉を遮るように幸村は言った。
「花の様な人だった」
「花、ですか?」
常に傍で笑っていてくれた。
優しく触れないと壊れてしまいそうだった。見ているだけで癒された。
「ずっと傍にいると思っていた…」
けれど、風に散る花びらのように目の前から消えてしまった。
「幸村様……」
「さぁ、日の高い内にもう少し先へ行こう」
再び二人は足を進めた。