第8章 story8“君を想う心”
「わぁー!賑やかですねー!」
更に三日後、大坂に辿り着いた幸村とくのいちは城下を歩いていた。
明日の夜の祭りの準備に追われ、どの店も慌ただしい様子だった。
「秀吉殿の元へ行こう」
「はい」
二人は大坂城へと向かった。
門番に話を通してもらい、幸村とくのいちは城内へと通された。
「よぉ来たのう!二人とも!」
「此度は…お招き感謝致します、秀吉殿」
「堅い挨拶は無しじゃ!幸村、今宵の祭りは存分に楽しめ!」
「お心遣い、感謝致します」
「あぁ、そうじゃ幸村」
「?」
秀吉に頭を下げ、立ち上がろうとした幸村を秀吉は引き止めた。
「彩芽の部屋は階段を降りて左じゃ」
秀吉の言葉に幸村は眉ひとつ動かさずに答えた。
「…彩芽殿には会わないようにと父に言われております故……失礼致します」
「失礼致しますっ」
立ち上がった幸村の後をくのいちが追う。
幸村の背中を見ながら秀吉は目を細めた。
「難儀、じゃのう…」
「お前様、あんな試すような事…彩芽には幸村が来たって話すのかい?」
「いや、若い奴らの問題に口を出すのはやめじゃ!流れに従おう、ねねも口出しは無用じゃぞ!」
「んもう!さっき口出ししたのはお前様じゃないかっ」
幸村が大坂にいるなど、微塵も思っていない彩芽は今夜の祭りのことを考えていた。
「珍しいもの、見られるかしら…ふふっ、楽しみ!」
ねねから借りた浴衣を広げながら笑みをこぼす。
清正と三成は幸村が大阪に来ていることを知っていた。
城を後にする幸村たちの背を見つめていた。
「あれが、真田幸村か」
「………」
「彩芽には会わないと言っているらしいが、どうだかな」
「………」
「おい、清正?」
何も答えない清正に三成は言葉を急かす。
「会わないさ、明日…彩芽は俺と祭りだ」
「……そうだったな」
言葉とは裏腹に清正の顔には焦りがあるように三成には見えた。
ただ、握り締められた拳に込められている思いまでは三成は読むことが出来なかった。
そして、祭りの朝がやって来る。
それぞれの男達の心とは程遠い、とても晴れやかな朝となった。