第8章 story8“君を想う心”
「今日も暑いなぁ…」
蝉の声を聞きながら彩芽は門前を掃除していた。
照りつける太陽を見上げてみるが、その眩しさに目を細めた。
「ここにいたのか」
「清正」
「明日…覚えているか?」
「もちろん、お祭りに連れてってくれるんでしょう?」
城下町でも祭りの準備に入り、日に日に賑やかさが増しているのを見て彩芽は明日の祭りをとても楽しみにしていた。
「おねね様が浴衣を貸して下さるって」
「な…!///おねね様に話したのか…」
「うん、おねね様も楽しみねって仰ってたよ」
「………ハァ」
二人で祭りに行く事がよりによってねねにバレてしまうとは…。
後で絶対に問い詰められるな…。
清正の溜め息になど気付かず、彩芽はニコニコと笑っていた。
「明日の夕刻、部屋まで迎えに行く…支度しとけよ」
「うん、わかった」
彩芽の浴衣姿が見られるのならと清正は気を取り直してそう言った。
その頃、上田では幸村の父、真田昌幸が頭を悩ませていた。
十日ほど前に豊臣から一通の文書が届いた。内容は彩芽が元気にしていると言うことと、大坂での祭りに招待したいとの話だった。
この文書は幸村の目にも入っていた。
「父上、此度の話…大坂へ、私に行かせて下さい」
「幸村、お前がまだ彩芽を思うておることはわかる…だが彩芽の立場上祭りに来ることはない、ましてや会える筈など…」
「それでも良いのです、行かせて下さい」
「幸村……」
幸村は彩芽が大坂へ立ってから戦の度に武功を上げ、真田の発展のため大きく貢献していた。
その気迫は時に家臣達もが息を呑むほどだった。
鍛練も人一倍積んでいた。
「お願い致します…」
頭を下げる幸村に昌幸は漸く承諾の返事を返した。
「但し、一人では行かせぬ。忍を同行させよ…幸村、念を押すようだが彩芽には会えぬぞ」
「承知しております、父上…感謝致します」
豊臣からの文書を持ち、幸村は早々に大坂へと旅立った。
本当に幸村を行かせて良かったのか。
昌幸はその事に頭を悩ませていたのだ。