第7章 story7“足元に、桜色”
兵士達の夕食の給仕を終えた彩芽は自室へと戻って来た。
「あれ…?」
襖を開けると知らない包みが置いてあった。
「何だろう…?あ…!」
何の気なしに包みを開いた彩芽は驚いて声をあげた。
包みを開けたそこには、
桜色の鼻緒のついた、草履。
「これって……」
彩芽は今日の城下町を思い出していた。
この草履は、あの時自分が欲しいと思った草履。
上田からの道中、草履を落としてしまった彩芽はねねからもう履いていないという草履を譲ってもらいそれを履いていた。
「三成だ…」
欲しいものがあれば言えと、三成は言っていたけれど自分はそんな身分ではないと彩芽は何も言わなかった。
彩芽は草履を抱えると三成の部屋へと向かった。
「…三成っ、開けていい…?」
「彩芽か」
襖をそっと開け、彩芽は三成の前に座り込んだ。
「三成…これ……」
「あぁ、開けたのか…なんだ、気に入らないか?」
難しい顔をした彩芽に三成は首を傾げる。
「気に入らないなんて!!これ…私が見ていた草履だよ…」
「そうか、合っていたのなら問題ないな」
草履を抱き締め、彩芽はぎゅっと唇を噛み締める。
「お前がいらぬと言うなら捨てるだけだが」
受け取る事を躊躇う彩芽に三成はそう言った。
「……私が、貰っていいの…?」
三成がその容姿ゆえに侍女や女中達に騒がれていることを彩芽も知っていた。
それに加えて自分は置いてもらっている身、三成からの贈り物など気が引けてしまう。
「…何度も言わせるな、お前がいらぬと言うなら捨てるまでだ」
「……」
彩芽は三成の顔をじっと見つめ、漸く観念したかの様に肩の力を抜いた。
「三成………ありがとう」
「最初から素直になっていれば良いのだよ」
三成の部屋から自室へと戻った彩芽は三成から貰った草履を大切に押し入れにしまった。