第7章 story7“足元に、桜色”
「あ…」
ふと、草履をしまった場所の隣を見ると大阪に来てから一度も開けていなかった風呂敷があった。
開けようか、少し迷った。
しばらくその風呂敷を見つめた末に彩芽は押し入れの戸をそっと閉めた。
「…きっと開けたら思い出しちゃうよね」
「彩芽」
廊下からふいに声を掛けられる。
「…清正?」
「あぁ、…今少しいいか?」
「うん、どうぞ」
戸を開けると少し難しい顔をした清正が立っていた。
「どうしたの?…あ、もしかして…まだ帰りが遅くなったこと怒ってる……?」
彩芽は夕方の事を思い出して肩を竦めて清正を見た。
「いや…そうじゃない……」
「なら、良かった…」
安心したようにふにゃりと笑う彩芽を見て、清正は意を決した様に口を開いた。
「彩芽っ!」
「は、はいっ!」
大きな声で突然名前を呼ばれ、思わず彩芽も大きく返事をしてしまう。
「…夏に祭りが、ある」
清正は自分を落ち着かせるようにゆっくりと言葉を繋いだ。
「おまつ、り…?」
「…一緒に、見て回らないか」
「え…?」
「祭りの日、一日俺にくれ」
突然の清正の言葉に初めは驚いたものの、『祭り』の響きに彩芽は胸を踊らせていた。
清正の彩芽への熱い想いには気付きもせずに。
季節は、初夏から本格的な夏へと変わろうとしていた。