第1章 story 1 “戦場に咲く一輪の華”
「…………………」
少女は口を閉ざしたまま俯いただけだった。
怖がらせてしまっただろうか、幸村は不安になったがそんな思いとは裏腹に少女は幸村の支える手にぎゅっとしがみついていた。
(私が怖いわけでは…ないのかな…)
戦で肉親を失えば誰だってショックは大きい。
だが、幼い頃から戦いの場に身を置いていた幸村にはそれがわからない様だった。
幸村は父、昌幸の元へ少女を連れていき、話をした。
「父上、この子を…上田にお連れしても良いでしょうか」
「その子は…?」
「此度の戦で、兄を失い……泣いておりました」
「ふむ………」
昌幸は少女の顔を見た。
怯えたように震えて、幸村の裾を掴んで離さない。
「父上、私はもう泣かせたくないのです!私がお守りしたいのです…!」
幸村は少女を庇うように立ち、父に向かってそう叫んだ。
本心だった。
こんな無力な少女が泣く世があってはならない、自分の手で彼女を守りたい。
そして、笑顔にしたい。
「……お前の思いはわかった、その少女は上田で保護しよう」
「ありがとうございます!父上!」
父の返答に幸村は笑顔で頭を下げる。
そして少女の方へ向き直ると、
「これからは私が貴方をお守り致します!……だから、もう泣かなくて…大丈夫」
「……………!」
上田に向かうため、幸村は再び馬跨がると少女に手を差し延べた。
差し延べられた手にそっと掴まり、少女は閉ざしていた口を開き小さく息を吸った。
「………彩芽…」
「え?」
突然聞こえた声に幸村は目を見開いて聞き返す。
「…彩芽と 、申します………」
幸村は彩芽の手を引いて引き上げ、馬に乗せる。
「彩芽殿、上田まで馬を急がせます故、しっかり掴まって下さい」
はっ!と声を上げ手綱を引き、馬を走らせる。
幸村は後ろからしっかりと彩芽を支え、 彩芽が落馬しないようにした。